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ゲーム系ニ次創作です
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拍手下さった方、ありがとうございますv


本当に、こんな放置状態の辺境にお運びくださってありがとうございます。
かなり更新していなかったのですが、ぽつぽつと拍手をくださる方がいらっしゃって、本当にうれしかったです。


↓よそのお宅にお嫁に行っていたものです
 お引越しのお話です

『Strawberry Shortcake on the love love lovechair』






 慶次が学校から戻ると、珍しく小十郎が家にいた。

「小十郎さん!早かったね~!」
 靴を脱ぐのも大慌てで、慶次がリビングに駆け込む。
 毎日一緒に暮らしていても、慶次と小十郎の時間はすれ違う事が多い。
 徳川と豊臣の手打ちがあってからは、小十郎が政宗と出かける事が多くなったし、慶次も一般教養課程が終わって免許や資格に関連した単位を多く取らなければならなくなったからだった。
 小十郎と一緒にいたいだけで宮城の大学を選んだ慶次だったが、折角入った学校だから、きちんとやりたい事を見つけるように小十郎から言われた。
 …小十郎には、慶次の生活を奪っているような負い目もあったのだ。
 ただ、自分の帰りを待っている慶次は可愛らしかったが、慶次にはその年頃に見合った楽しい事も持って欲しかった。大学もそうであったし、友人も、遊びも、自分とは無関係な世界も知っていて欲しかった。
 この事に関しては、慶次と何度も話し合って決めたのだ。自分を厄介払いする為にそんな事を言い出していると言って怒る慶次を、何度も何度も説得した。喧嘩になって、慶次一人でキッチンで眠った事もあったが、最後には納得して、大学も真面目に通うし、友達も作ると約束した。
 そんなわけで、慶次の料理の腕と反比例して一緒に夕食を食べる事は以前より減っていた。
「今日何にも材料が無いんだけど、…何か食べに行く?材料買いに行く?」
 ピンクのラブチェアの背もたれ越しに慶次が小十郎の首に巻きついた。
「一緒に買い物行く?」
 小首を傾げて見せた慶次が、何を思ったのか急に頬を赤くした。
「あの…えと…ほら……それとも、俺にする?…」
 言ってしまってから、恥ずかしいのか慶次がソファの後ろに隠れた。
「なんか新婚さんみたい……すっげ、ドキドキするよっ」
 膝を抱えて座り込んだ慶次の頭を、小十郎が何かでぽん、と叩いた。
「俺もお前食いたいんだけど……」
「え…?…ええ!?」
 馬鹿な事を言うなと怒られるかと思っていた慶次だったが、小十郎がソファの背もたれ越しに手を伸ばしてくるとびっくりして壁際まで後退った。
「なんだよ。食っていいんじゃないのか…?」
 振り返ってにやりと笑う小十郎を見て、慶次が頬を膨らませた。
「…結局からかってるんじゃん……」
 さっき慶次の頭を叩いた物。小十郎が持っている物が何かのパンフレットのように見えて、慶次が覗き込むように立ち上がった。
「何見てるの?…って!うわっ」
 手元を見ようと、背もたれから乗り出した慶次の腕を小十郎が掴んで引き寄せた。
「な・何?え?」
 決して小さくない慶次だが、小十郎がそのまま自分の上に引き摺り倒してしまった。
「食っていいんだろ?」
 小十郎の目が柔らかく細められると、慶次の頬を掌で包んだ。
「う……うん…食べていいよ」
 もう一緒に暮らして一年以上になる。それでも、未だに慶次は小十郎が笑って見せるだけで、未だに涙が出るほど嬉しくなってしまう。
「慶次…」
 もう、小僧とは呼ばれない。
 ちゃんと名前を呼んでくれる。
 それも慶次には嬉しくて仕方が無い。
 自分は一日に何百回も小十郎の名を呼んでしまうのだが、呼ばれる方は一日に数えるほど…、それでも小十郎に呼ばれるのが嬉しい。それだからこそ、呼ばれる自分の名前が愛しい。
「…ん…」
 キスも、小十郎のキスも慶次には嬉しいもの。本当は出掛ける時にもして欲しいのだが、もしも小十郎にキスしてもらって出掛けたら、…恥ずかしくて誰とも目を合わせられなくなってしまう。
「…小十郎さん…何見てたの…?」
 唇を離しても、髪を優しく撫でられながら慶次が聞いた。
「ん?これか?」
 小十郎が床から拾い上げたのは、新築のマンションのパンフレットだった。
「政宗の会社…?」
 広域暴力団の組長である政宗だが、表向きに献金したりする為に会社も幾つか持っていた。土木関係の会社もあったはずだが、マンションデベロップメントの会社だとは聞いた事が無かった。
「いや、筆頭の会社じゃない。…部屋探しだ」
「…え…?…」
 小十郎の胸に頬を乗せて、ごろごろと喉を鳴らしそうな顔をしていた慶次が飛び起きた。
「や!やだよ!」
「慶次?」
「俺、どこにも行かないからね!!」
 飛び起きた慶次が寝室に駆け込んだ。
「おい、ちょっと待て」
 追いかけた小十郎の前でドアが閉められた。
「…俺、絶対出てかないよ!」
 …早く帰ってきたのも、キスしてくれたのも、全部その為なんだ……。自分を厄介払いしようとしている小十郎に、慶次は腹が立つより悲しくなった。……ずっと一緒って言ったのに…約束したのに………。
「にぃ…」
 膝を抱えてドアの前に蹲っている慶次の足に、小さな白い毛玉が二つ寄って来た。
「…ゆき…はる……」
 ニィニィ鳴いて近づいて来る子猫を抱き上げて、慶次が頬を寄せた。
「…小十郎さん…嘘つきだね……みんな一緒って言ったのに……」
 子猫を抱いて蹲っている慶次の背にドアが当った。
「慶次、ちゃんと話を聞け」
 細く開いた隙間から小十郎が覗きこんだ。
「……絶対出て行かないよ…だって、…だって、ずっと一緒にいてねって……約束……」
 言いながら、慶次の声が掠れていく。
 …泣いちゃ駄目だ……。
 泣いて勝つのは女の子だ。
 今までは、感情が先走りすぎて泣き出してしまった事もある慶次だったが、自分が泣いているのを見る小十郎の顔が酷く悲しそうなのに気付いてからは泣かないように我慢してきた。
「…誰がお前一人の為にこんな豪勢なマンション買うって言ったんだよ」
「…え?……」
「3LDK,ペット可、ジャグジー付き。……お前一人で住むつもりか?」
 ぽかん、と口を開けた慶次が見上げていると、小十郎がぼりぼりと頭を掻いた。
「…一緒に見に行くだろ…?」
「小十郎さん……」
 子猫を抱えて、慶次が後退った。
 そっとドアを開けた小十郎の顔に苦笑い。自分はいつもそんなに慶次を邪魔にしていたのだろうか……、新しいマンションに引越しと聞いて喜ぶと思っていたのだが、こんな風に思うとは考えてもみなかった。
「慶次」
 床にしゃがみ込んでいる慶次の前に小十郎も腰を下ろした。
「…でもさ、なんで急に引越しなの…?」
 確かに、小十郎がずっと住んでいるこの賃貸マンションは古い。小十郎と慶次では手狭と感じる事もある。だが、今まで一年以上こうして暮らしていたのだ。
「…おまえ、勉強とか忙しくなってるだろ?」
 慶次はほとんど学校の事などを話さない。小十郎が家に仕事を持ち込まないのだから、自分の学校での事などもあまり話せなくなっていたのだ。小十郎が家にいられる時は慶次もずっと張り付いていて、小十郎が眠ってからレポートを仕上げたりもしていた。慶次にしてみれば、大学も勉強も嫌いではなかったが、小十郎といられる時間の方が楽しいからそうしているのだが、小十郎にしてみれば、慶次は女房ではないのだからそんな風に自分を犠牲にする必要はないといつも思っていたのだ。
「…うん…でも、…大丈夫だよ。今のままでも」
「…だから……なんだ、…その……」
 じっと見詰める慶次の目から、小十郎が僅かに目をそらした。
「…そんなに始終べったりじゃなくてもいいだろ?」
 少し困ったような小十郎の顔に、慶次が言い返そうとすると、…小十郎の人差し指が慶次の唇に当てられた。
「期間限定とか…そういうんじゃねぇだろ?…ずっと一緒なんだろ?……今からお前が色々我慢してたら、この先辛くなっちまうかもしれねぇ」
「…小十郎さん…?」
「…俺は…ずっとのつもりだから……。今から窮屈にしてても仕方ねーだろ」
「小十郎さぁぁん」
 慶次が膝に抱いていた子猫が飛び降りた。
 小十郎も慶次を受け止め損ねて尻餅を突いた。
「ここは猫飼ってもかまわねーけど…そいつらもいつまでもチビじゃねーしな」
 慶次が不安を抱えるように、小十郎も不安を抱えている。
 ふらりと居ついた猫のような慶次、またいつ出て行ってしまうか分からない。…小十郎はその時には、黙って慶次を行かせてやろうと思っていた。…思ってはいるが、出来ればその日は来て欲しくない。
 慶次の頬が小十郎に擦り付けられた。
「…慶次…俺とずっといてくれるんだろ?」
「うん……うん…」
 慶次の髪を撫でる小十郎の手。慶次にはこの手も嬉しくて嬉しくて仕方の無いもの。
「…それに……」
 小十郎が手にしたままのパンフレットを慶次の前に差し出した。
「ベッドルームは一つのところしか選んでねぇんだけど……」
 少し赤い小十郎の顔。これも慶次の宝物。
「…当たり前だよ~!」
 もう一度抱きついて、小十郎に尻餅を突かせる。




 それからは大忙しだった。

 その日のうちに何件か物件を当ってみて、その中で気に入った所を何回か下見にも行った。
 マンションを決める間に、大家さんに挨拶を済ませたり、荷造りをしたり……、慶次にとっては、小十郎が仕事を抜け出して一緒にいてくれる事だけでも嬉しかった。
 一緒にいて、一緒に同じ事をする。…何でもない事のようだったが、小十郎の稼業を考えれば、それはかなり難しいことだった。だから、一緒に取る食事、一緒に眠るベッド、そんな何でも無いような事が慶次には一つ一つ宝物だった。

 そんな大忙しの一ヶ月が過ぎて、無事に引越しの日が来た。
 引越し業者と一緒に荷物を運び込んだり、違う場所に連れてこられて興奮している子猫たちが逃げ出したり、ラビットファーのシーツごと梱包したベッドを解いた業者が大慌てになったり……、ばたばたと忙しい一日が過ぎた。

 ダンボールが全部運び込まれ、逃げ出していた猫も戻り、18畳のリビングの壁が徐々にクレーンゲームの戦利品で埋め尽くされる頃、小十郎が豹柄のラブチェアに腰を下ろして息を吐いた。
「疲れた?コーヒー入れようか?」
 別注で壁中につけてもらったフックにぬいぐるみを掛けながら慶次が小十郎に尋ねた。
「ん?」
 黙って手招きする小十郎に、慶次が小首を傾げた。
 お気に入りらしいピンストライプのタキシードを着たガイコツのぬいぐるみを抱えた慶次が小十郎に近づくと、腕を掴んで引き寄せられた。
 広いリビングには小さなラブチェア。
 元から小十郎と慶次で座れば満杯になってしまう小さなラブチェアに、二人で収まった。
「ソファセットとか見てくる?政宗のところの倉庫見せてもらえばなんかあるよ、きっと」
 寄り添って、…と言うよりはぎゅうぎゅうに詰められたようにこの椅子に座るのは、慶次には楽しいのだが、小十郎は窮屈に思ってるんじゃないかと、…小十郎の肩に乗った慶次の顔が少し心配そうになる。
「…リビングがだだっ広いだけだって落ち着かねぇのに、……これ以上離れて座れるかよ……」
 小十郎の腕が慶次の肩を引き寄せて、花びら色の髪に口付けた。
 新しいマンションは、セキュリティも含めて、小十郎にも満足の行くものだった。
 引越しの理由の一番は慶次にもプライベートを持たせたいと思った事だったが、今は沈静化している徳川と豊臣の抗争がいつまた始まるかも知れないと言う思いもあった。
 小十郎一人であれば、以前の住まいを見つけられる事はなかったかも知れないが、慶次はやはり人目を惹く。
 住宅街の中の古い静かなマンションでは、慶次の容姿は口コミで近所の主婦が集まるほど目だっていた。その事も含めて、引越しを考えていた。
 概ね、小十郎も気に入ったのだが、このリビングの広さは計算外だった。
 下見に来た時は、それほど感じなかったのだが、対面キッチンのカウンターの中で食器を片付けている慶次を見た時、随分と遠くにいるように思ったのだ。今までの小十郎の家ではこのラブチェアがあるだけで、抱き合うようにくっつかなければすれ違う事も出来なかったのだから、……それと比べれば、ここは野球場の外野席くらい広く感じてしまう。いずれは、この距離にも慣れるのだろうが、柄にも無く小十郎は少し淋しいような気持ちになっていた。
 自分自身でも気付かないうちに、小十郎の中にも、慶次の居所は出来ていたのだ。
「…よかった。俺、ここで小十郎さんにぎゅうって、すんの好き」
 部屋が広い事が淋しそうに言う小十郎がどこか可愛らしくて、慶次の頬に笑みが浮かぶ。
「…俺も…」
「ほんと!?小十郎さんも!」
 慶次の目の前で、小十郎の頬が薄らと赤くなった。小十郎のこの顔は、怒っているのでも困っているのでもない…、照れているだけだ。
 嬉しくても、悲しくても、小十郎はあまり表情を変えない。だから、一緒に住み始めた頃は小十郎の表情が読めずに空回りした慶次だが、今は分かる。今は、小十郎が自分を見る眼差しが、他の誰を見る時とも違っているのが分かる。
「…えへへ…嬉しい…」
 甘く蕩けるような笑顔が、小十郎の肩の上に咲いた。
 小十郎にとって慶次は陽だまりに咲いた花。……もしも、この花を枯らすような出来事があったら…、小十郎自身も生きてはいられないほどに、胸の中深くに根を張った可愛らしくて強い花だった。
「引越し祝いに、ケーキ焼こうかな。ね?小十郎さん何のケーキがいい?」
 引っ越したマンションには大きなガスオーブンがあった。慶次がここに決めたいと言った理由の何割かはこのオーブンだった。
「…今日は、ケーキより……お前がいいんだけど……」
 今ある材料でもシフォンなら焼けるかと、ストックの粉や生クリームの事を考えていた慶次の唇に小十郎の指先が触れた。
「…駄目か?」
 ぽかんと口を開けてしまった慶次に小十郎が困ったような笑顔を見せた。
 その笑顔にまた見惚れて…言葉の出ない慶次、ぶるぶると首を振った。
 頬っぺたは、ショートケーキのイチゴの色。
 小十郎にとっては、どんなケーキよりも甘くて美味しい慶次なのだ。
「…残さないで食べてね…?」
「当たり前だ。誰が残すかよ」
 狭いラブチェアにぎゅうぎゅうに詰まって、小十郎の顔が柔らかく綻ぶ。それは、慶次の宝物。

 ……ねぇ、小十郎さん。ずっと、ず~っと…一緒だよね………。
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