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ゲーム系ニ次創作です
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↓マサケイです。
 爪子さんの慶示板に投稿した物です。

「慶次」
 納戸の隅に蹲っていた慶次、まつの声に顔を上げた。
「あの方が、馬を借りたいと言って来ましたよ」
 子供の頃から、慶次泣くのは納戸の隅だった。人前では明るく振舞っていても慶次も人の子。けれど泣き顔を見られるのは嫌いな意地っ張り。蹲って声を殺して泣いている。
「明日の朝早く発つと言っていました」
 膝を抱えている慶次に近付いたまつ、そっと涙に濡れた頬を撫でた。
「きちんとお別れを言わなくていいの?」
「だって………」
 慶次の膝の上で、夢吉も案じたような目を向けている。
「だって……大嫌いって言っちゃったもん……」
 途方に暮れたような慶次の目を見詰めて、まつが微笑んだ。
「せっかくお友達になれたのに…?」
 ---友達……----友達になりたいと思わない………そう言われた。慶次の目に新しい涙が浮かんだ。
「友達じゃないって……俺と……友達になりたくないって………」
「慶次」
 まつが慶次の前に膝を揃えて座った。
「あの方の優しさですよ、それは。……あの方は奥州の伊達政宗公です」
 告げようか…まつも迷っていた。だが、今目の前にいる甥っこは放って置けるような顔をしていない。
 何年か前にも、慶次がこんな顔をして家に閉じこもっていた事がある。その時は、相手の事も判らなかったし、失恋と言うには慶次が纏う悲愴が哀れで、聞き糺す事も出来なかった。酷く心が傷付いた事だけは、まつにも利家にも解っていたから、慶次の気の済むようにさせてやろうと思っていた。
 そして、時間はかかったが、慶次は元の自分を取り戻したように見えた……、上辺は、である。
 上辺は以前の慶次に戻ったように見えたが、時折慶次が見せる孤独を、まつも利家も埋めてやる事は出来なかった。いつか、心を許し慈しみ合う人ができれば、慶次の孤独は癒されるだろうと思っていた。
 ……それが、戦に明け暮れる陸奥の竜とは思わなかったが……。
 慶次が政宗を連れて来てからと言うもの、政宗がいなければ夜も日も明けないような有り様の慶次を見て、まつも政宗を追い出す事が出来なかったのだ。最近の情勢では、毛利と事を構えていた様子の伊達である。戦の決着もないのに、政宗を匿っていれば前田家にも火の粉が降り掛かるかも知れない。……それでも、政宗を見捨てる事が出来なかったのは、慶次の嬉しそうな笑顔の為だった。
「あの方は、私に正式に名乗って礼を言いました。……天下への夢を捨てる事も、支えてくれた家臣を裏切る事も出来ない自分はここにはいられないと言いました。慶次……貴方に、嘘を吐きたくなかったのではないですか…?」
 慶次、まつの顔を黙って見詰めていた。
 伊達政宗……知っていた。噂に聞く独眼竜は、親族さえも撫で斬りにする非情の男だった。覇権争いに明け暮れて、人ではないと言う者さえあった。---そんなの……だーりんじゃないよ……---慶次の前にいた政宗は、とてもそんな男に見えなかった。---だって……あんな綺麗な目をしてるのに………---慶次が惹かれた政宗の眼。深く済んだ瞳は嘘を吐いているようには見えなかった。
「だって……友達じゃないって……」
 ぽつりと涙と一緒に零れた言葉。
「そうでしょうね。……あの方が、貴方を見る目は…恋する者の目ですもの」
 これも、告げようかと迷ったまつだった。出来れば、この甥はおおらかで優しい乙女と恋をして欲しかった。慶次の纏う春の気配のような優しい娘と恋に落ちて欲しかった。けれど、馬を借り受けたいと言いに来た政宗の、精一杯取り繕っても泣いた跡の隠せない顔や、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった着物の袂を見てしまっていた。それに、このにぶい甥は気付いてはいないだけ、こちらの瞳にも恋の色は色濃くあった。
「恋………」
 その証拠のように、慶次の頬が朱に染まった。
「からかう為だけに男の口を吸ったりしない方ですよ、きっと」
「まままっっまつ姉ちゃんっ!?」
 政宗の国では当たり前の挨拶と言われても気恥ずかしのに変わりはない、他に人のいるような所では口は吸わなかったはずだと、慶次の顔が真っ赤になった。
「ところ構わずあんな事をしておいて……今更照れても遅いですよ」
 ぽんと、まつの手が優しく慶次のおつむを叩いた。
「行って上げなさい」
「うん!」
 現金なもので、友達になりたくないのは『恋仲』になりたいからと言われた慶次、袂で顔をごしごし擦って立ち上がった。
「キ…キキッ」
 膝に掴まってついて行こうとする夢吉を抱き上げて、そっとまつに預ける。

 ---だって…だってさ……二人だけで逢いたいんだもん……----
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