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拍手にコメントくださった方、ありがとうございます!
5/19『とうとうラブホに~』とコメントくださった方*ありがとうございます!そうですよねっ!流出したら欲しいです……orz……相変わらずお互いを振り回している人たちなのですが、書いていると楽しいですvvぽつぽつとシリーズは書いて行く予定なのですが、よろしかったらまたお付き合いくださいませvv
↓Eurynomeは慶示板に投稿したものです。Prosarpineはその翌日のお話です。
5/19『とうとうラブホに~』とコメントくださった方*ありがとうございます!そうですよねっ!流出したら欲しいです……orz……相変わらずお互いを振り回している人たちなのですが、書いていると楽しいですvvぽつぽつとシリーズは書いて行く予定なのですが、よろしかったらまたお付き合いくださいませvv
↓Eurynomeは慶示板に投稿したものです。Prosarpineはその翌日のお話です。
Eurynome(彷徨う者)
夜中に見る夢は決まっていた。
幼子の手のふっくらとした笑窪に落ちた涙。
役立たずの癖に、失うには焼け付くような痛みを耐えねばならなかった右目。流れ出した血で消された涙。
その涙が、いつまでも政宗の中に残っているのだ。
夜半過ぎ、独り起きる寝床で触れた指先を濡らすものに、腹立たしさを覚える。
床に起き上がり、火打ちを使う。暗闇は、左目もあるかどうか分からなくなり不安になる。不安はまた政宗を苛立たせる。夢如きに脅えるか……、嫌な汗に塗れて、政宗が息を吐く。
何年かは忘れていた夢だった。夢よりも、戦場の名残の方が強かった。戦で猛った心に、幼く弱い子供が入り込む隙は無かった。
政宗にも分かっている。何故、この夢を見てしまうのか……求めても、得られなかった優しい腕の記憶。それは、政宗の隣の部屋で眠っている。今頃、安らかな寝息を立てて眠っている政宗の宝物。
己の世界には決して住めないと思っていた、優しく愛らしい花。
「…no problem……I'm sure……」
乱暴に頬を拭って言い聞かせる。何度自分に唱えたか知れない呪文……。たとえ、家内の者に聞かれても分からないように……。臆病に唱える呪文。政宗の習い性になっていた。
夜中に聞こえる小さな呟き。
ふと目覚めてしまった晩に、耳に付いたのは震える声。
誰の声なのか、分からないほどに頼りなかったその声に、誰何することを躊躇った。
その声を聞いてから、慶次の眠りは浅くなった。
夜半過ぎ、襖越しの呻き声と小さな嗚咽。呪文のように繰り返される言葉。
じっと布団の中で気配を殺し、気付いている事を知られないようにしてきた。政宗が自分に言わないのならば、それは聞いてはいけないことだ。慶次、自分を戒める。
いつかは話してくれるだろう。何に脅えて唱える呪文か……。戦事が嫌いな自分を気遣って、政宗は見せない面を多く持つ。
淋しくは思うが、尋ねる事で逆に距離を作ってしまうようで、慶次は尋ねることが出来ない。恋しいと言ってくれた孤独な竜、出会ってしまえば惹かれずにはいられなかった、終世を誓うもの。
誰も癒す事は出来ないと思っていた、猛々しくも悲しい魂。
「…………」
俺を呼んでよ……言葉ではなく、心で思う事。政宗の声を聞くたびに、慶次側に行って抱きしめたい。何も聞かなくて構わない。傷を見せてくれなくてもいい……ただ、抱きしめてやりたい。
側にいて欲しいと言われ、恋しいと言われ……だが、政宗が慶次を求める事は無かった。子供のようにじゃれあって、触れるだけの口付けを繰り返し。政宗、決して慶次を求めなかった。
有態に言えば恐いのだ。後に未練を残すのも、自分が未練となるのも……体を繋ぎ知ってしまえば欲が生まれる。政宗は自分自身の充たされなかった独占欲が恐い。
もしも慶次が春風に攫われるように自分を置き去りにしても、今ならば諦めが付く。否、無理にも諦める事が出来るかも知れない。だが、慶次の肌身を知ってしまったら、慶次に名残を残したら……諦めきれないだろう。分かっているのだ。だからこそ、戒める。
それは、月の明るい晩。
月明かりに浅くなった眠りのせいか、政宗やはり夜半過ぎに目を覚ました。
「no problem……I'm sure……」
繰り返し震えた声で唱えると……開く事は無いと思われた襖が開いた。
「…だーりん……俺……」
男としても小さい方ではない慶次だが、舞い散る花びらのような軽さで政宗の腕の中に納まった。
政宗の涙に濡れた眼を見てしまった慶次、政宗を捕まえなければならないと思った。
「どこにもいなくならないで……だーりん……俺を置いて行っちゃやだ……」
「いなくなっちまうのは……俺じゃねぇだろ……」
淋しげな声が、慶次の心を震わせる。涙を拭った後を慶次の唇がなぞって、政宗の瞼に口付ける。
「いつでも、俺がいて……ぎゅってして上げるから……だーりんは俺のになってよ……」
「慶次……」
涙を拭うのも忘れて見惚れた。政宗の胸に納まってしまった慶次、はらはらと桜の花びらに塗れて真摯な瞳が政宗だけを見詰めている。
「だーりんは、俺が見つけて…俺が拾ってきた俺のもんだもん……俺も、だーりんのものにしてよ……」
菫色に魅入られて、戒め続けた政宗の心がほどけた。
固く、固く結んだ戒めは……一度ほどけ出したら止まらなかった。
口付けて、口付けて、息を吐く間さえないほど口付けて、政宗の手が慶次を覆うものを奪ってゆく。
何も隔てる衣の無くなった慶次。
ぽかりと空に浮かんだ月のように、眺めるだけで居よう等とは綺麗ごと。
受け止める慶次の腕、政宗の目に新たな涙が浮かんだ。
ああ…生きていて良かった……Thanks givin'…全てのものに…thankful………
Prosarpine(春の女神)
床の中で目覚めた慶次、体の怠さに顔を顰めた。
夕べは政宗の床で休んでそのまま朝になっていた。…朝とは言っても、日は高くもう昼と言ってもいいくらいの時刻になっている。
起き上がろうとすると、体のあらぬ所が痛んだ。
……ああ…夢じゃないんだ……
夜中に目覚める政宗の様子が痛々しくて、放って置くことが出来なかった。自分が少しでも癒してやる事が出来れば……。慶次にとって政宗派『だーりん』なのだ。ままごとのように楽しい事ばかりではなく、辛い事も、悲しい事も……過去の記憶さえも分けて欲しかった。
政宗は自分で『いい人』と言って置きながら、掠めるような口付け以外にそれらしい事は何もして来なかった。情人らしい交わりは無く、仲の良い友人のように扱った。慶次にしてみれば、政宗について奥州に来るのは一大決心だったのだ。慶次も男の身の上、しかも子供でもない。男の元に嫁ぐとは思ってみた事も無い。だが、慶次の決心は、嫁入りだった。政宗の瑕も何もかもを受け止める覚悟で来たのだ。
そんな慶次にとっては陸奥での暮らしは肩透かしだった。菜園を趣味とする小十郎を手伝ったり、政宗と遠乗りに行ったり、これでは客分だ。寝所は同じだろうと、漠然と思っていた慶次に、政宗は晩酌を済ませると自室に戻って寝ていた。幾ら酔っても、政宗の戒めは固いらしく、慶次は口付け以外のものを政宗から与えられる事は無かった。
そのまま一月が過ぎる頃、慶次が政宗の様子に気付いた。夜中に目覚めて一人孤独と戦うような政宗の声を初めて聞いた時に、慶次の眼からも涙が零れた。悲しげな声は、とても政宗の物とは思えず……慶次も声を掛け損なってしまった。
そして、夕べの事。意を決した慶次、政宗の寝所の襖を開いた。たった一枚の襖、それが開けずに悶々とした慶次だったが、夕べは政宗を抱きしめたい気持ちを抑える事が出来なかった。
……政宗のものになりたかった……政宗が、いつか慶次がふらりと旅立ちたくなった時の枷にならないようにと、配慮をしてくれている事は分かったが、端から諦めたようなその態度は許せなかった。慶次も酔狂で政宗の元に来たわけではない。初めて会った時から竜の瞳に魅入られて、恋しさを抑え切れずに付いて来たのだ。
恐いほどに真剣だった政宗の目。奪い去るように、それでも慶次を恐がらせないようにと必死に抑えながら抱いた腕。本当は…本当は竜はこんなにも慈しみ深く優しいのだと、慶次の縋る腕も熱を帯びた。
知らない事は恐くもあった、信じられないような痛みもあった。だが、それでも自分は政宗と慈しみ合う事が出来たのだ。慶次の胸にはほっこりと暖かい物があった。
それなのに、今慶次は一人政宗の床にいる。
……少しは労わってくれたっていいじゃないか………後朝の目覚めとなれば気恥ずかしくも嬉しくて、手探りに布団を探って一人きりだと気づいた時は、拍子抜けしたのと同時に淋しかった。
……つまんなかったのかな…?…だーりん………不慣れな自分は政宗を癒す事は出来なかったのだろうか、慶次の眉が寄った。思い返し見ると、痛い事もされたが、夢心地のように快い感触ばかりを思い出す。自分一人で楽しんでしまった空回りだったのかと、慶次少し悲しくなった。
……恋しいって…言ったのに……痛みが過ぎても圧迫感に苛まれる慶次をあやすようにしながら、政宗は慶次を恋しいと言ったのだ。
「はぁ……」
溜息を吐いて寝返りを打つと、腰から下が強張ったようになって痛んだ。
「目ぇ覚めたか?」
慶次の溜息を聞きつけたのか、隣の部屋で政宗が声を掛けた。
「……起きてるよ」
放って置いたわけでも無いかと思ったが、やはり目が覚めて政宗がいなかった事は淋しかった。
「なんか喰えそうか?」
盆を手に入ってきた政宗の言葉に、慶次忘れていた空腹を思い出した。
「うん、お腹空いたよ」
握り飯の乗った盆を枕元に置いた政宗、布団の端に腰を下ろしたが、慶次の方を見ないようにしている。
「…だーりん……俺、つまんなかった?」
握り飯を頬張ろうとしたが、顔を向けない政宗が気になって慶次が尋ねた。
「ばっ……何言ってんだよ!」
振り返った政宗の顔があり得ないほど赤かった。
「…だーりん……」
真っ赤になった政宗の顔を見て、慶次の頬も赤くなった。
「…enbarrassedだろ……」
ふいと逸らした政宗の隻眼に、慶次が抱きついた。
「お…おいっ」
「良かった……だーりん、俺がつまんなくてやんなったかと思った……」
「……心配したのはこっちだ……手加減してやれなかったし……」
政宗の手が労わるように慶次の背を抱いた。手加減どころではなかったのだ。慶次の肌は、桜の花びらそのものだった。淡く香り立ち、しっとりと政宗の手に馴染んだ。慣れない事に恥ずかしがってはいたが、政宗のする事を拒まなかった慶次。手放しに、何の思惑も見返りも無しに慶次は政宗を受け止めてくれた。
「きす、しよう」
慶次が政宗を見上げて言った。子供のようにあどけない顔をして……
……やっぱり…こいつangelだ………
花びらの唇に、政宗そっと口付けた。
夜中に見る夢は決まっていた。
幼子の手のふっくらとした笑窪に落ちた涙。
役立たずの癖に、失うには焼け付くような痛みを耐えねばならなかった右目。流れ出した血で消された涙。
その涙が、いつまでも政宗の中に残っているのだ。
夜半過ぎ、独り起きる寝床で触れた指先を濡らすものに、腹立たしさを覚える。
床に起き上がり、火打ちを使う。暗闇は、左目もあるかどうか分からなくなり不安になる。不安はまた政宗を苛立たせる。夢如きに脅えるか……、嫌な汗に塗れて、政宗が息を吐く。
何年かは忘れていた夢だった。夢よりも、戦場の名残の方が強かった。戦で猛った心に、幼く弱い子供が入り込む隙は無かった。
政宗にも分かっている。何故、この夢を見てしまうのか……求めても、得られなかった優しい腕の記憶。それは、政宗の隣の部屋で眠っている。今頃、安らかな寝息を立てて眠っている政宗の宝物。
己の世界には決して住めないと思っていた、優しく愛らしい花。
「…no problem……I'm sure……」
乱暴に頬を拭って言い聞かせる。何度自分に唱えたか知れない呪文……。たとえ、家内の者に聞かれても分からないように……。臆病に唱える呪文。政宗の習い性になっていた。
夜中に聞こえる小さな呟き。
ふと目覚めてしまった晩に、耳に付いたのは震える声。
誰の声なのか、分からないほどに頼りなかったその声に、誰何することを躊躇った。
その声を聞いてから、慶次の眠りは浅くなった。
夜半過ぎ、襖越しの呻き声と小さな嗚咽。呪文のように繰り返される言葉。
じっと布団の中で気配を殺し、気付いている事を知られないようにしてきた。政宗が自分に言わないのならば、それは聞いてはいけないことだ。慶次、自分を戒める。
いつかは話してくれるだろう。何に脅えて唱える呪文か……。戦事が嫌いな自分を気遣って、政宗は見せない面を多く持つ。
淋しくは思うが、尋ねる事で逆に距離を作ってしまうようで、慶次は尋ねることが出来ない。恋しいと言ってくれた孤独な竜、出会ってしまえば惹かれずにはいられなかった、終世を誓うもの。
誰も癒す事は出来ないと思っていた、猛々しくも悲しい魂。
「…………」
俺を呼んでよ……言葉ではなく、心で思う事。政宗の声を聞くたびに、慶次側に行って抱きしめたい。何も聞かなくて構わない。傷を見せてくれなくてもいい……ただ、抱きしめてやりたい。
側にいて欲しいと言われ、恋しいと言われ……だが、政宗が慶次を求める事は無かった。子供のようにじゃれあって、触れるだけの口付けを繰り返し。政宗、決して慶次を求めなかった。
有態に言えば恐いのだ。後に未練を残すのも、自分が未練となるのも……体を繋ぎ知ってしまえば欲が生まれる。政宗は自分自身の充たされなかった独占欲が恐い。
もしも慶次が春風に攫われるように自分を置き去りにしても、今ならば諦めが付く。否、無理にも諦める事が出来るかも知れない。だが、慶次の肌身を知ってしまったら、慶次に名残を残したら……諦めきれないだろう。分かっているのだ。だからこそ、戒める。
それは、月の明るい晩。
月明かりに浅くなった眠りのせいか、政宗やはり夜半過ぎに目を覚ました。
「no problem……I'm sure……」
繰り返し震えた声で唱えると……開く事は無いと思われた襖が開いた。
「…だーりん……俺……」
男としても小さい方ではない慶次だが、舞い散る花びらのような軽さで政宗の腕の中に納まった。
政宗の涙に濡れた眼を見てしまった慶次、政宗を捕まえなければならないと思った。
「どこにもいなくならないで……だーりん……俺を置いて行っちゃやだ……」
「いなくなっちまうのは……俺じゃねぇだろ……」
淋しげな声が、慶次の心を震わせる。涙を拭った後を慶次の唇がなぞって、政宗の瞼に口付ける。
「いつでも、俺がいて……ぎゅってして上げるから……だーりんは俺のになってよ……」
「慶次……」
涙を拭うのも忘れて見惚れた。政宗の胸に納まってしまった慶次、はらはらと桜の花びらに塗れて真摯な瞳が政宗だけを見詰めている。
「だーりんは、俺が見つけて…俺が拾ってきた俺のもんだもん……俺も、だーりんのものにしてよ……」
菫色に魅入られて、戒め続けた政宗の心がほどけた。
固く、固く結んだ戒めは……一度ほどけ出したら止まらなかった。
口付けて、口付けて、息を吐く間さえないほど口付けて、政宗の手が慶次を覆うものを奪ってゆく。
何も隔てる衣の無くなった慶次。
ぽかりと空に浮かんだ月のように、眺めるだけで居よう等とは綺麗ごと。
受け止める慶次の腕、政宗の目に新たな涙が浮かんだ。
ああ…生きていて良かった……Thanks givin'…全てのものに…thankful………
Prosarpine(春の女神)
床の中で目覚めた慶次、体の怠さに顔を顰めた。
夕べは政宗の床で休んでそのまま朝になっていた。…朝とは言っても、日は高くもう昼と言ってもいいくらいの時刻になっている。
起き上がろうとすると、体のあらぬ所が痛んだ。
……ああ…夢じゃないんだ……
夜中に目覚める政宗の様子が痛々しくて、放って置くことが出来なかった。自分が少しでも癒してやる事が出来れば……。慶次にとって政宗派『だーりん』なのだ。ままごとのように楽しい事ばかりではなく、辛い事も、悲しい事も……過去の記憶さえも分けて欲しかった。
政宗は自分で『いい人』と言って置きながら、掠めるような口付け以外にそれらしい事は何もして来なかった。情人らしい交わりは無く、仲の良い友人のように扱った。慶次にしてみれば、政宗について奥州に来るのは一大決心だったのだ。慶次も男の身の上、しかも子供でもない。男の元に嫁ぐとは思ってみた事も無い。だが、慶次の決心は、嫁入りだった。政宗の瑕も何もかもを受け止める覚悟で来たのだ。
そんな慶次にとっては陸奥での暮らしは肩透かしだった。菜園を趣味とする小十郎を手伝ったり、政宗と遠乗りに行ったり、これでは客分だ。寝所は同じだろうと、漠然と思っていた慶次に、政宗は晩酌を済ませると自室に戻って寝ていた。幾ら酔っても、政宗の戒めは固いらしく、慶次は口付け以外のものを政宗から与えられる事は無かった。
そのまま一月が過ぎる頃、慶次が政宗の様子に気付いた。夜中に目覚めて一人孤独と戦うような政宗の声を初めて聞いた時に、慶次の眼からも涙が零れた。悲しげな声は、とても政宗の物とは思えず……慶次も声を掛け損なってしまった。
そして、夕べの事。意を決した慶次、政宗の寝所の襖を開いた。たった一枚の襖、それが開けずに悶々とした慶次だったが、夕べは政宗を抱きしめたい気持ちを抑える事が出来なかった。
……政宗のものになりたかった……政宗が、いつか慶次がふらりと旅立ちたくなった時の枷にならないようにと、配慮をしてくれている事は分かったが、端から諦めたようなその態度は許せなかった。慶次も酔狂で政宗の元に来たわけではない。初めて会った時から竜の瞳に魅入られて、恋しさを抑え切れずに付いて来たのだ。
恐いほどに真剣だった政宗の目。奪い去るように、それでも慶次を恐がらせないようにと必死に抑えながら抱いた腕。本当は…本当は竜はこんなにも慈しみ深く優しいのだと、慶次の縋る腕も熱を帯びた。
知らない事は恐くもあった、信じられないような痛みもあった。だが、それでも自分は政宗と慈しみ合う事が出来たのだ。慶次の胸にはほっこりと暖かい物があった。
それなのに、今慶次は一人政宗の床にいる。
……少しは労わってくれたっていいじゃないか………後朝の目覚めとなれば気恥ずかしくも嬉しくて、手探りに布団を探って一人きりだと気づいた時は、拍子抜けしたのと同時に淋しかった。
……つまんなかったのかな…?…だーりん………不慣れな自分は政宗を癒す事は出来なかったのだろうか、慶次の眉が寄った。思い返し見ると、痛い事もされたが、夢心地のように快い感触ばかりを思い出す。自分一人で楽しんでしまった空回りだったのかと、慶次少し悲しくなった。
……恋しいって…言ったのに……痛みが過ぎても圧迫感に苛まれる慶次をあやすようにしながら、政宗は慶次を恋しいと言ったのだ。
「はぁ……」
溜息を吐いて寝返りを打つと、腰から下が強張ったようになって痛んだ。
「目ぇ覚めたか?」
慶次の溜息を聞きつけたのか、隣の部屋で政宗が声を掛けた。
「……起きてるよ」
放って置いたわけでも無いかと思ったが、やはり目が覚めて政宗がいなかった事は淋しかった。
「なんか喰えそうか?」
盆を手に入ってきた政宗の言葉に、慶次忘れていた空腹を思い出した。
「うん、お腹空いたよ」
握り飯の乗った盆を枕元に置いた政宗、布団の端に腰を下ろしたが、慶次の方を見ないようにしている。
「…だーりん……俺、つまんなかった?」
握り飯を頬張ろうとしたが、顔を向けない政宗が気になって慶次が尋ねた。
「ばっ……何言ってんだよ!」
振り返った政宗の顔があり得ないほど赤かった。
「…だーりん……」
真っ赤になった政宗の顔を見て、慶次の頬も赤くなった。
「…enbarrassedだろ……」
ふいと逸らした政宗の隻眼に、慶次が抱きついた。
「お…おいっ」
「良かった……だーりん、俺がつまんなくてやんなったかと思った……」
「……心配したのはこっちだ……手加減してやれなかったし……」
政宗の手が労わるように慶次の背を抱いた。手加減どころではなかったのだ。慶次の肌は、桜の花びらそのものだった。淡く香り立ち、しっとりと政宗の手に馴染んだ。慣れない事に恥ずかしがってはいたが、政宗のする事を拒まなかった慶次。手放しに、何の思惑も見返りも無しに慶次は政宗を受け止めてくれた。
「きす、しよう」
慶次が政宗を見上げて言った。子供のようにあどけない顔をして……
……やっぱり…こいつangelだ………
花びらの唇に、政宗そっと口付けた。
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